マンション・アパートを引っ越しする時、気になるのは引越し費用と、「退去時の原状回復の費用」です。
原状回復とは入居時の状態に戻すこと。
東京の賃貸物件ではここ数年敷金ゼロの物件が増えていますが、退去の際、入居者負担はいくら取られるのか?
または、敷金は払ってるけどそのお金は戻ってくるのか?
不安ですよね?
『どうやったら費用を抑えられるの?』
『そもそも何にいくらかかるの?』
『なるべくお金は払いたくない!』
そんなあなたに、マンション・アパートの賃貸管理のプロ「ぱたる先生」が退去費用を抑える2つのコツを伝授します。
結論を先に見る場合は目次からどうぞ。
私はマンション・アパートの賃貸管理の仕事に長年携わった経験があり、過去に物件の退去立会いをした人数は1,000人を超えています。
私は、物件の売買に関しては全くの素人ですが、
このあたりは守備範囲です。
今回は、原状回復に関わる退去時の費用を抑えるコツを紹介します。
(※注意点 : 主に関東圏での経験、判例を基にしているため、その他地方では独自のローカルルールが働いている可能性があります)
以下、退去費用を抑える2つのコツです。
① 水周りの清掃
② クロス(壁紙)の清掃・補修
他にも床材の損耗や残置物の処分、電球・電池代、その他入居者過失による損耗など色々ありますが、上の2つさえ押さえておけば大きな金額が抑えられます。
一つ一つ説明する前に、よくありがちな入居者負担の例を紹介します。
東京23区1K(20㎡)物件の場合。
負担項目 | 負担金額 |
清掃一式 | 30,000円 |
壁クロス貼替え(居室1面) | 15,000円 |
キッチン換気扇清掃 | 3,000円 |
トイレ尿石除去 | 2,000円 |
物干し竿処分 | 1,000円 |
合計 | 51,000円 (税込55,080円) |
このパターンは多いですね。
「軽めの全部乗せ」パターンって言ってもいいかな。
人によってクロス貼替えがなかったり、トイレ尿石がなかったりしますが。
さて、こうやって見ると、多くの費用が掛かっているのは、
清掃系
クロス系
だということが分かります。
特に目を引くのは「清掃一式3万円」
これが最も単価が高い項目です。
これを含めて、前提として理解する必要があるのが「特約」という考え方です。
特約とは、一般的な契約内容に追加される項目で、例えば、
などです。
これらは絶対の法的な力があるのか?
答えは、「基本的にあります」
裁判になった時、特約を無効にできない場合とは、
出典:【原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)平成23年(2011年)8月 国土交通省 住宅局】(以下、ガイドラインと言う)より。
以上のどれか1つでもなければ、特約をちゃぶ台返しできなくもないですが、書類にサインをしてるでしょうし、どこまで突っぱねるかはあなた次第。
ただ、「タバコも吸ってない」、「壁に穴もない」普通の状態で何十万円も請求されたら敷金返還の少額訴訟もありです。
というかやりましょう。
前項に戻りますが、室内全体の清掃一式が30,000円になっていました。
これは東京ではごく一般的な1Kの相場で、「自分的に部屋をピカピカにきれいにしても」かかる費用だと思ってください。
金額は、管理会社が良心的で、設備の少ない狭い物件は25,000円~。
イケイケ系の管理会社だったり、高級設備だったりする場合は38,000円くらいに設定している会社もあります。
23区の1K、1ルームで30,000円だったら普通ですかね。
以前、大阪出身の入居者が「めっちゃ高いやんけ、向こうじゃ2万が相場だ」と言ってましたがどうなんだろう。
2Kや3K以上のファミリー物件の場合だと、占有面積(㎡)×1,000円前後が清掃費の相場です。
50㎡なら5万円ということです。
こちらも設備がいいと㎡1,100円くらいもありますね。
さて、「特約」の考え方を踏まえて、改めて退去費用を抑える2つのコツをおさらいします。
① 水周りの清掃
② クロス(壁紙)の清掃・補修
これでしたね。
順番に説明しましょう。
水周りとは、
になります。
具体的にどのような汚れがあると追加費用がかかるのか?
それは、
このあたり。
つまり、清掃業者の手間=時間がかかる清掃は追加費用がかかるんです。
なるべく費用をかけたくない場合は、自分で清掃しちゃいましょう。
こちらは、上段が汚れの種類、下段がそれに対応する成分と、その成分が入った洗剤です。
例えば図右上の油汚れ。
油汚れは酸性です。酸性なので、逆の成分のアルカリ性で溶かして落とすんです。
おすすめの洗剤はマジックリンなど。
他にも、重曹+食器洗剤、セスキ炭酸ソーダ+食器洗剤の組み合わせでもOK(食器洗剤の界面活性剤の効果を生かす)
※ 塩素系漂白剤のハイターなどと、酸性のサンポールは混ぜちゃダメ!有毒ガスが発生します!
清掃グッズと言えば100均は欠かせません。
スーパーなどで買うよりはるかに出費を抑えられます。
おすすめグッズはこのあたり。
退去時の費用負担を減らすために生まれてきたといっても、過言ではないほどの使えるヤツ。
基本は水を含ませて使う。
水栓周り(ステンレス部分)は乾いた激落ち君で水垢をこそぎ落とす。
(※注意 メラミンスポンジは表面を削り取るので、素材のつやがなくなったり、変形、変色の恐れがあります)
掃除の万能洗剤と言っても過言ではない。素材を痛めず、幅広い箇所に使える。
マジックリン代を抑えたい人におすすめ。
100均スプレーに入れて吹き付けて使うのもGOOD。
浴室のしつこい水垢に振りかけ、ペーパーやラップで包んで30分放置。すると全く取れなかった水垢が解けてくる。(サンポールを薄めるのもありだけど、変色に注意)
ウロコとは、鏡やガラスについたウロコのような水垢のこと。これも普通の洗剤では全くおちません(ウロコは入居が短いと入居者過失になるかも)
100均のウロコ落とし(人工ダイヤモンド材)ならゴリゴリ取れて気持ちいい。
昔は1000円以上したな~。
つい貼ってしまったフックやシール。落とすならシール剥がしスプレーがおすすめ。ついでに100均のステンレス製ヘラもあると完璧。
退去費用を抑える2つ目のコツはクロス=壁紙の清掃や補修。
これの取り扱いはデリケートです。
なぜなら、もし全面貼替えとなると費用負担が高額になるからです。
例えば占有面積が20㎡の1Kだったとします。
浴室や窓などを除くと、壁クロスの面積は大体45~65㎡くらいになります。天井クロスは16㎡くらいかな。(部屋の作りによる)
つまり最大で81㎡の広さ。
東京のクロス単価は1㎡あたり1,000~1,500円です(普通の量販品で)
もし1,500円なら、1,500円 × 81㎡で121,500円。
入居が短ければ、入居者の按分比率も高い。
(按分比率とはオーナーと入居者での負担割合のこと)
タバコを吸っていようものなら100%負担もありえます(契約書による)
タバコフラグが立ってしまうと悲惨です。
タバコ部屋の一例
負担項目 | 負担金額 |
清掃一式 | 30,000円 |
クロス貼替え(全面) | 121,500円 |
キッチン換気扇清掃 | 4,000円 |
エアコン内部洗浄 | 15,000円 |
ヤニ取り建具清掃 | 5,000円 |
消臭施工 | 3000円 |
合計 | 178,500円 (税込192,780円) |
これくらいになっても不思議じゃありません。
少額訴訟に持っていっても負けるかな。
お香や電子タバコも注意が必要です(立会い者が鼻が効かない人だとラッキーで回避できるかも)
クロスの汚れですが、基本的に通常使用による汚れなら、貼替えだろうと清掃だろうと入居者負担にはなりません。
しかし、入居が短かったり、白黒どちらともとれる汚れだったりした場合は不安ですよね?
そこで、自分で処理する方法を教えます。
基本的に、メラミンスポンジ(激落ち君)と重曹、雑巾があれば大抵の汚れは落ちます。
それでも落ちない場合は、汚れに応じて多少工夫する必要があります。一例ですが、
ヤニ汚れ編
家具の色移り編
何かの色編
も紹介します。
白いクロスがもしヤニで真っ茶色に変色していたら諦めましょう(笑)
次に、本人はOKと思っていても、立会いで喫煙がばれるパターンは壁の角が真っ白い場合です。
角は入隅(いりずみ)と呼ばれ、コーキングの跡が真っ白く残るため、相対的に白いと思っていたクロス部分が実はヤニで薄茶色になっていることがあるんです。
下の画像は正常なクロス(喫煙してない)
青矢印が角=入隅です。
入隅に真っ白い筋が入っている場合、その周りの色がヤニで茶色になっているから白く目立っているのです。
軽度のヤニ汚れなら清掃でなんとかなります。
先ほどの汚れ対応表を見てみましょう。
ヤニは酸性の汚れなので、反対のアルカリ性の、
重曹
セスキ炭酸ソーダ
マジックリン
このあたりで汚れが落とせます。
100均で重曹やセスキ炭酸ソーダ、スプレーを用意し、スプレーで吹き付けて使うのもおすすめ。
家具の色移りは主にソファかな。
茶色とか赤色が多いです。
ただ、こういった変色は「通常使用による損耗」とガイドラインでは捉えているので、入居者過失にはなりません。
それでも不安だという人は、ハイターを薄めて雑巾でこすってみましょう。
濃いと変色する可能性があるので、少しずつ試すのがいいですね。
注意点は、引越し直後に退去立会いがある場合、ソファをどかしてみてあらビックリ!っていうパターンが多いです(笑)
この場合掃除しているヒマはないので、強気に「通常使用です」で押し切ろう!
これは、よく分からんけど何かのシミがある時。
ピンク色とか赤色が多いかな。
まずは水を含んだメラミンスポンジでトライ。
それでもダメならハイター攻撃。
それでもダメな時はダイソーの壁の穴埋めパテ。これで塗り塗りしてごまかしちゃう。
ホームセンターのジョイントコークでもOK(アイボリーかベージュがおすすめ)
他には、クレヨンなら歯みがき粉、油性マジックやボールペンの汚れなら除光液で落ちるかも。
さきほどの汚れと違うのは、
小さい釘穴
引っかきキズ
剥がれ
大きい穴
このあたり。
上記は、ガイドラインでも通常使用と認められていません。つまり入居者過失になるわけです。
釘穴はダイソーの壁の穴埋めパテでOK。
ちなみにピンや画鋲の穴は、通常使用による損耗とガイドラインで定められているので、やる必要なし。
引っかきキズは入退去の引越し時に付くことが多いので、引越し業者の作業が終わった跡は特にチェックが必要です。
特に玄関の周りの角に付いていることが多い。
引っかきキズや剥がれの補修はこちらのサイトを参考にして下さい。
出典:【住まいブル – 簡単にできる!壁紙のキズ補修】より
ちょっとしたキズなら入居者負担ゼロで逃げ切る(笑)ことも可能です。
穴が大きい場合、直せないこともないですが、かなり難易度は上がります。
たまにあるのが、彼氏がDV野郎で、彼女の部屋がボコボコに穴が開いているパターン。
入居者に会うとごく普通の女性ですが、「ちょっと知り合いに壊されてしまって・・・」と寂しそうに話してきます。
自分で穴の補修はできないこともないんですが、それよりも同じ型式のクロスを用意することのほうが難しいんです。
似たような柄のクロスを貼ってもすぐばれちゃうんですよね。
だったらやるだけ無駄かと。
穴の話ついでに、建具の話もしておきましょう。
建具とは扉や枠などのこと。
先ほどのクロスの穴=壁ボードの穴補修の場合、一箇所1万円以下の負担で済みますが、高級物件の扉に穴を開けた場合、特注品で1枚10万円超えることもあります。
自分はもちろん、引越し業者のチェックも忘れずにしましょう。
以上、「賃貸の引越しで退去費用を抑える2つのコツ」でした。
他にもフローリングやCFなど床材の扱いや、善管注意義務についてなど、細かく挙げていけばまだチェックする点はあるのですが、自分が普通に使っているつもりであれば、上記の2つのコツさえ押さえておけば高額の費用を請求されることないでしょう。
仮に請求されたら、その業者はボッタクリ業者です(残念ながら東京にはまだ多い)
敷金がなかったら無視する。
敷金があれば、敷金返還に向けて少額訴訟で戦うことをおすすめします。
あ、その前に独立行政法人 国民生活センターの、消費者ホットライン「188」へ電話で相談だね!